あなたの建設業財務諸表は疑われているかもしれません

経審の前に受ける経営状況分析で、追加資料を求められたことはありませんか?それは、社長の会社の建設業財務諸表が疑われているからかもしれません。

経営状況分析の持つ虚偽申請防止機能

言うまでもないことですが、公共工事の入札は公平かつ透明でなければいけません。したがって、公共工事の入札参加登録の際に義務付けられている経営事項審査についても、公平かつ透明である必要があります。例えば、経審用の建設業財務諸表は税抜で統一されている(一部例外あり)のも、税込か税抜かという会計処理によって有利不利が生じないようにするためです。

国は、各地方整備局等や都道府県宛てに『経営事項審査の事務取扱いについて』という通知文書や告示を出すなどして経審の公平性と透明性の確保に努めていますが、国を含めて各行政からは見えにくい部分、それが建設業財務諸表(決算書)の公平性です。

税法に則った会計処理をしてきちんと納税をしていれば税務署は何も言いません。しかし、建設業財務諸表、特に経審を受ける場合の建設業財務諸表においては、会計処理についても一定の公平性・客観性が保たれていなければなりません。それでこその客観的な評価です。しかし、前述のとおりこれは行政から見えにくいものです。そこで、経営状況分析の際に分析機関が“疑義チェック”を行って、建設業財務諸表(決算書)における虚偽申請防止の機能を果たしています。

この“疑義チェック”に当てはまると、建設業者は分析機関から追加資料を求められます。そして追加資料を含めて確認した結果、特に問題がなければそのまま分析結果通知書が発行されて無事終了です。しかし、一定の基準を超える場合には、疑義チェックに引っかかった建設業者について分析機関から国土交通省に定期的に報告をしています。

“疑義チェック”の基準や確認方法については、分析機関以外には非公開となっています。手品の種明かしになってしまうので当然です。しかし、以前『全建ジャーナル』(2006年12月号)に国土交通省建設業課が寄稿した記事が掲載されたことがありました。今も大きくは変わっていないと思いますので、ご紹介していきます。

総資本回転率の経年変化が異常に大きい

総資本回転率は、総資本(総資産)が自社の売上にどれだけ有効に活用されているかを判断する指標、次の計算式で計算します。

数字が大きいほど、総資本を上手に回転させることができている=効率的に売上を作ることができていることになります。中小企業庁の2018年中小企業実態基本調査によると、全産業の平均値は1.12(回)、建設業は1.32(回)となっています。自社の数値を計算して、平均値と比べてみてください。

この総資本回転率の数字が前年に比して大きく変わってるということは、総資本はあまり変わらずに売上だけが急激に増減するか、売上はあまり変わらずに総資本だけが急激に増減するかのどちらかです。前者であれば前期または当期に計上すべき売上を意図的に計上しなかった可能性がありますし、後者であれば完成工事未収金や未成工事支出金等の科目を調整している可能性があります。

未成工事支出金が月商に比して異常に多い

「未成工事支出金」は、建設業者の粉飾決算に使われることが多い科目として有名です。「未成工事支出金」は決算日において完成していない工事(=工事の完成が次年度以降になる工事)について、そこまでに支出した材料費や外注費などの工事原価を流動資産として一旦計上しておく科目です。

粉飾されがちなのは、例えば、決算日ギリギリに終わった工事を売上にはきちんと入れたにもかかわらず、それに対応する費用を工事原価として計上していないケースがあります。これは、収益(売上)を計上するときはそれにかかった費用(原価)をセットで計上しなければならないという収益費用対応の原則からして明らかに不適切な処理です。

特別損失が売上高に比して異常に大きい

金融機関に提出したりステークホルダーに提示したりすることを考えると、損益計算書に出てくる各利益は大きければ大きいほど良いです。そこで各利益を大きく見せようと、工事原価や販売費及び一般管理費として計上すべき費用を、特別損失として計上する粉飾が行われることがあります。これをすることで売上総利益、営業利益、経常利益が大きく見えるようになりますが、最終的に算出される当期純利益は変わらないため、決算書上の辻褄が合ってしまうのです。

これは経営状況分析(Y点)の点数アップ方法の裏返しにはなるのですが、点数アップのために特別損失に付け替える場合にはきちんと根拠を示せることが必要です。

また、もう1つ考えられるのは、過去の粉飾を特別損失で帳消しにしている可能性です。建設業者の粉飾決算として多いのが、架空の工事売上を計上し、その売上分をそのまま完成工事未収入金として計上し続けておく方法です。

単年でガッツリということもあれば、複数年にわたって少しずつということもあるでしょう。しかし、これをやると売上に比して完成工事未収入金が大きくなりすぎるため、どこかで精算しなければなりません。そうなると回収不能債権(貸倒損失)として特別損失で処理することになり、売上高に比して特別損失だけが大きくなることになり、粉飾決算の後処理の疑いが濃くなります。

各勘定科目の金額が総資産の金額に比して異常に多い

ここまでお読みいただいた方であればもはや説明不要かもしれませんが、貸借対照表の中で突出している勘定科目があれば、やはり気になるものです。前述の完成工事未収入金や未成工事支出金はもちろんのこと、兼業がある場合には兼業分の売掛金や買掛金、破産債権更生債権等の金額が大きい場合には、分析機関から追加資料を求められるものと思っておいた方がよいでしょう。それ以外の勘定科目でも金額が大きければ数字を付け替えたりしている可能性が疑われます。しかし、きちんとした理由があればなにも恐れることはありませんので、説明するための資料を用意しておきましょう。

前期、当期の経常収支比率がいずれも100%未満、かつ当期経常利益がゼロ以上である

経常収支比率は経営状況分析(Y点)の8指標ではないので、あまりなじみのない言葉かもしれません。私も今回この記事を書くにあたって、初めて真剣に勉強しました。しかし、金融機関ではよく使われている指標のようです。

経常収支比率はキャッシュフローに着目して資金繰りを見る指標で、通常の営業活動で当期の運転資金をまかなえているのかをチェックするものです。計算式は次のとおりです。

(※1)経常収入=売上高-受取手形増加額-売掛金増加額+前受増加額+前受収益増加額+営業外収益

(※2)経常支出=売上原価-支払手形増加額-買掛金増加額-未払金・未払費用増加額+棚卸資産増加額+前渡金・前払費用増加額+販管費+営業外費用+その他流動資産増加分-減価償却費-貸倒引当金増加額

うーん、とても複雑ですね。ざっくり言ってしまえば、経常収入はお金の入り(売上高と営業外収益と前受金)から売掛金や手形のように実際にはお金が入ってきていない金額(の増加分)を控除したもので、経常支出はお金の出(原価、販管費、営業外費用、前払金等)から買掛金や減価償却費のように実際にはお金が出て行っていない金額(の増加分)を控除したものです。

一般企業の経常収支比率は100%以上になることが大前提です。100%未満ということは支出が収入を上回っている状態、つまり通常の営業活動が赤字なので、資金繰りが不安な状態ということになります。

さて、この経常収支比率が「2期連続で100%未満」ということは資金繰りがとても厳しい状態であるのは言うまでもなく、それにもかかわらず「当期経常利益がゼロ以上」ということは、売掛金が急激に増えていたり、棚卸資産(原材料や未成工事支出金)が急激に増えていたりと、なにかしら粉飾が疑われる原因となります。

目を付けられやすい決算書とは

上記5つの項目については、あくまでも『全建ジャーナル』(2006年12月号)の記事で紹介されていたものです。当然これ以外にも“疑義チェック”のチェック項目はあるものと思われますが、非公開のため我々が知ることはできません。しかし、改めて5つの項目について考えてみると、やはり完成工事未収入金(売掛金)、未成工事支出金(買掛金)、原材料あたりが目立つ建設業財務諸表は目を付けられやすいということがよくわかります。

本記事をお読みいただいている社長の中にはそういう方はいないと思いますが、粉飾決算は犯罪です。粉飾に手を染める前に、1日でも早く財務体質の改善に取り組みましょう。

 
行政書士法人Co-Labo
 

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