こんにちは。“入札コンサルティングを通して建設業者さんの売上に貢献する”行政書士の小林裕門です。今回は、経審の点数であるP点の5つの評価項目のうち、X1(完成工事高)について解説します。P点の全体像については『 経審結果通知書を見る上で、P点よりも大事なこと 』という記事でまとめているので、そちらもご覧いただければ幸いです。
目次
売上がいくら上がると、経審は何点上がる?
X1は、「完成工事高」の文字通り、各業種の工事売上金額についての評価項目です。建設業者さんの売上はどうしても波があるので単年度では評価せず、今期と前期の2年平均か、今期と前期と前々期の3年平均のいずれか都合の良い方を選択することになっています。なので、複数の業種で経審を受けている方は、例えば、「土木は2年平均の方が点数が良いけど、建築は3年平均の方が点数が良いんだよなぁ…」と、どちらの点数を優先した方が良いのか悩まれたことがあるのではないでしょうか。
さて、そもそも、経審の5つの評価項目をどのように評価し点数化するのかについては、建設業法・建設業法施行令・建設業法施行規則をどれだけ探しても出てきません。実は5つの評価項目については、『建設業法第27条の23第3項の経営事項審査の項目及び基準を定める件』という国土交通省告示と、『経営事項審査の事務取扱いについて(通知)』という国土交通省から各行政庁向けに出ている通知により定められています。この中に、X1についての点数算出についての表が設けられていて、告示と通知をまとめると次のようになります。
許可を受けた建設業に係る建設工事の種類別年間平均完成工事高 |
X1の点数計算式(年間平均完成工事高は「千円」単位) |
1,000億円以上 | 2309 |
800億円~1,000億円未満 | 114×(年間平均完成工事高)÷20,000,000+1,739 |
600億円~800億円未満 | 101×(年間平均完成工事高)÷20,000,000+1,791 |
500億円~600億円未満 | 88×(年間平均完成工事高)÷10,000,000+1,566 |
400億円~500億円未満 | 89×(年間平均完成工事高)÷10,000,000+1,561 |
(中略) | (中略) |
10億円~12億円未満 | 39×(年間平均完成工事高)÷200,000+811 |
8億円~10億円未満 | 38×(年間平均完成工事高)÷200,000+816 |
(中略) | (中略) |
2億円~2億5,000万円未満 | 28×(年間平均完成工事高)÷50,000+678 |
1億5,000万円~2億円未満 | 34×(年間平均完成工事高)÷50,000+654 |
1億2,000万円~1億5,000万円未満 | 26×(年間平均完成工事高)÷30,000+626 |
1億円~1億2,000万円未満 | 19×(年間平均完成工事高)÷20,000+616 |
(中略) | (中略) |
1,000万円~1,200万円未満 | 11×(年間平均完成工事高)÷2,000+473 |
1,000万円未満 | 131×(年間平均完成工事高)÷10,000+397 |
ここでは途中を省略して掲載していますが、X1の評点表は全部で42段階に区分されていて、正直あまり見る気にならない表です。しかし、安心してください。社長がこの表を頭に入れておく必要はまったくありません。普段から経審と入札に触れている私でもこの表はまったく頭に入っていません(笑)もちろん自社の売上を当てはめてみてX1の点数が何点くらいになりそうなのかを把握できるに越したことはありませんが、むしろ大切なのはそこではありません。X1について、覚えておいて欲しいことは2つだけです。
名付けて「逃げ恥」理論!
中小建設業者の社長に覚えておいて欲しいことの1つめは、売上(年間平均完成工事高)が増えれば点数も増えるということです。売上が1億円よりは2億円、2億円よりは3億円と、売上が上がるほどにX1の点数はあがっていきます。これはX1について間違いのない事実です。
しかし、売上1億円の会社の売上が2億円になった場合と、売上10億円の会社の売上が11億円になった場合だと、そのインパクトって全然違いますよね。金額では同じ1億円アップですが、かたや売上倍増かたや10%アップです。そして、これが点数にも現れています。まずは、売上1億円の会社について、上の表を使って計算してみましょう。
売上1億円 : 19×1億円÷20,000+616=711点
↓
売上2億円 : 28×2億円÷50,000+678=790点
売上が1億円アップしたことで、79点(P点換算で19.75点分)もアップしているのがわかります。一方で、
売上10億円 : 39×1o億円÷200,000+811=1,006点
↓
売上11億円 : 39×11億円÷200,000+811=1,025点
と、売上10億円の会社では売上が1億円アップしても、19点アップ(P点換算で4.75点分)に留まります。つまり、中小建設業者の社長に覚えておいて欲しいことの2つめは、売上が増えればX1の点数も増えますが、その増え方は一定ではなく、だんだんと減っていく(逓減していく)ということです。これをグラフで描くと、こういう曲線を描きます。
年間平均完成工事高(横軸)の数値が大きすぎるので、売上1億円までの部分を拡大したものも載せておきます。
どちらのグラフも、増え方がだんだんと減っている(逓減している)のがわかります。これを見て「なるほどぉ」と思っていただけたかとは思いますが、ここまではあくまでもX1の点数計算方法とデータ分析でしかありません。本当に大事なのは、これを自社にどう活かすかです。
例えば、ここ数年の売上が3億円前後で推移している会社があります。今の経審の点数は814点ですが、次の経審では850点を取りたいと考えています。このとき、X1以外の項目が前年と全く同じだったとして、今年の売上はいくら必要でしょうか?倍の6億くらい?3倍強の10億くらい?答えを見る前に、勘でも良いので数字を想像してみてください。
さて、答えを言ってしまうと、約15億円です。ご自身の想像した売上と比べてどうだったでしょうか。私は正直驚きました。売上3億円前後で来ていた会社が、いきなり15億円の売上を上げないといけないのです。現実的に考えて、これって1年でいけますか?たぶん99%の方が「無理っ!」と仰ると思います。人の採用や育成、営業戦略やマーケティングにお金と時間をかけて数年後に達成するならまだしも、1年でというのはやはり現実的ではありません。
したがって、売上はもちろん大事なのですが、ある程度のところまで来ると売上では点数が上がりにくくなってくるので、中小建設業者はそれ以外の方法(他の評価項目)で点数を上げていく必要があるのです。職員数や財務状況は業者さんごとに違うので一概にどこをどうしたら良いとは言えませんが、少なくとも1年で売上を15億円まで引き上げるよりは現実的な点数アップ策があるはずです。
売上はある程度のところまで上げつつも、それ以上はあえて追い求めず、それ以外の評価項目で確実に点数を拾っていく。これが「逃げるは恥だが役に立つ理論」、通称「逃げ恥理論」です。中小建設業者の社長はついつい売上に目が行きがちですが、経審においては5つの評価項目全体に目を配り、売上規模では多少カッコ悪くても、最終的に入札で勝ち抜くことが大切です。