売上が増えても経審の点数が下がる『負債回転期間』

こんにちは。“入札コンサルティングを通して建設業者さんの売上に貢献する”行政書士の小林裕門です。前回から経営状況分析(Y点)について解説しています。第2回目は、Y点の8指標のうち中小建設業者の落とし穴になりやすい『負債回転期間』についてです。前述のように、中小建設業者にとっては大きなポイントとなる4つの指標の1つです。


『経営状況分析(Y点)の徹底解説』~目次~

1、純支払利息比率
2、負債回転期間(←今回はこちら)
3、総資本売上総利益率
4、売上高経常利益率
5、自己資本対固定資産比率
6、自己資本比率
7、営業キャッシュフロー
8、利益剰余金


売上が上がっているのにY点が下がるのはなぜ?

経審を受けている中小建設業者の社長と話をしていると、「今年は売上も利益も上がったから、点数どれくらい上がるか楽しみだな」と言われることがあります。しかし、いざ経審を受けてみると経審の点数(P点)が下がっていて、「あれ?なんで下がってるの??」と困惑される社長は少なくありません。売上が上がっているのに経審の点数が下がったときは、この『負債回転期間』に原因があるかもしれないので、自社の建設業財務諸表でチェックしてみてください。『負債回転期間』の計算式は次のとおりです。統計では、平成30年度の全体平均は5.98か月で、前年、前々年と比べてもほぼ横ばいで推移しています。

計算式を見ると、流動負債と固定負債の合計(負債合計)を、1月あたりの平均売上高(総売上高÷12)で割り算しています。つまり、負債合計が何か月分の売上に相当するのかを表した指標です。負債が1か月分の売上に相当するのと1年分の売上に相当するのとでは当然前者の方がよいわけで、計算で求められた数値が小さいほど点数が良い指標ということになります。前回の『純支払利息比率』と2つ併せて、負債抵抗力を示す指標と言われています。

さて、前回の『純支払利息比率』同様、分数の問題を考えていきましょう。この計算式の分数が小さいほど『負債回転期間』の評価が良くなるということは、分子は小さくなるほど分母は大きくなるほど分数全体が小さくなり、評価が良くなります。言い換えれば、

  • 分子を小さくする=負債を減らす
  • 分母を大きくする=売上を増やす

ことで、『負債回転期間』は改善していきます。

そして、この『負債回転期間』は、中小建設業者の落とし穴になることが多い指標です。なぜなら、売上が上がっていてもそれ以上の割合で負債が増えてしまっている場合には、数値が下がってしまうからです。具体的な数字で見てみましょう。

  • 年売上96,000千円/負債10,000千円の場合:1.25か月
  • 年売上120,000千円/負債250,000千円の場合:2.5か月

確かに売上は24,000千円増えていますが、それと同時に負債も20,000千円増えています。売上が前年比125%というのはとても素晴らしいのですが、負債は前年比250%増に膨れ上がっているため、『負債回転期間』で見るとマイナスになってしまうのです。急激な売上アップは資金が追い付かずに借入等の負債が増加しやすいので、注意が必要です。

負債を減らすための具体策

さて、負債を減らし、分子を小さくするための具体策について見ていきましょう。注意したいのは、これらの負債減少策が実行できるのは、決算期間中に限られるということです。決算日を過ぎてしまうと、その対策は次期の決算の話になってしまうので、対策を講じるタイミングには十分注意してください。

①の表 借入金を返済する・債務免除してもらう

当たり前すぎて読み飛ばしてしまいたくなるかもしれませんが、最後までお付き合いください。負債と聞いて真っ先に頭に浮かぶのは「(短期・長期)借入金」だと思います。銀行等金融機関からの借り入れ、社長をはじめとした役員からの借り入れ、さらには社債などもありますが、いずれも借りたお金なので返さなければなりません。そこで、キャッシュに余裕があるのであればこれらを繰上げ返済することで負債を減らすことができます。さらには、支払利息の節約にもなるので、『純支払利息比率』においても点数アップ(というか、それ以上の点数ダウン抑止)につながります。ただ、注意していただきたいのは、キャッシュに余裕がないのに無理してやることではないということです。運転資金はきちんと確保しておくようにお願いします。

と、ここまでは本当に当たり前の話で、書籍等でも書かれている内容です。中小建設業者の社長に本当にお伝えしたいのはここからです。

①の裏 一旦返して翌々日にまた借りる

そもそも経審は、基本的には決算日を審査基準日として、その決算日時点でどうだったかを評価する審査です。したがって、経営状況分析(Y点)も決算日時点でどうだったのかを見ています。なので、言い方は悪いですが、どんなに一時的だったとしても決算日に会社の借入金が減っていればよいのです。例えば、社長が会社に30,000千円貸している(会社から見れば、役員借入金が30,000千円ある)とします。次の図を見てください。決算日が3月31日の会社であれば、その前日3月30日に社長からの借入金30,000千円を返済します。そして、返済の翌日に決算日(3月31日)を迎えます。さらにその翌日4月1日から新しい年度が始まりますが、そこで社長から新たに30,000千円借り入れします。すると、決算日である3月31日時点では借入金30,000千円の分負債が少ない貸借対照表が出来上がります。(決算日当日の返済でもかまわないのですが、万が一なにかしらの理由で返済の手配ができなかった時のことを考えて、前日返済としています。)

はたしてこれは違法でしょうか?当然ながら帳簿上の操作のみでは、税理士さんも税務署も納得はしないでしょう。しかし、返済も新たな借入も銀行振込で行い、新たな借入については新たに契約書を交わす等、きちんと実態を伴う取引がなされていれば、なんの問題もないはずです。そうであれば、2日我慢するだけで負債を大きく減らした貸借対照表が作れるのだから、やらない手はありません。さらに、総資産(総資本)を絞ることにもなるので、この後説明する『総資本売上総利益率』にも良い影響を与えてくれます。しかも、これにかかるコストは振込手数料のみ!というコストパフォーマンスが超絶高いのがまた嬉しいですね。

中小建設業者の決算書を見ていると、金額の多寡はありますが、社長が会社に対してお金を貸していることは結構多いです。前述のとおりキャッシュがあることが前提の話ではありますが、2日なら我慢できる可能性は大いにあると思いますし、公共工事を受注するための建設業財務諸表を作る(粉飾という意味ではなく!)ためにはこういう引き出しを数多く用意しておくことが大切です。

② 過剰在庫にならないよう定期的に在庫を見直す

材料や建築資材といった在庫については常日頃から気をつけていることと思いますが、過剰在庫になっていないか改めて確認しておきましょう。在庫が過剰になっていると、その分買掛金や支払手形が多くなっていたり、支払いのために借入金が一時的に増えてしまったりして、負債を増やす要因になっている可能性が大です。

③ 決算日が適切なのかを検討してみる

これはこの後に出てくる『総資本売上総利益率』にとってもプラス材料になるのですが、今の決算日(決算月)が適切なのかを検討してみてください。会社設立時に1か月でも長く消費税の免税措置を受けるために、決算日を“設立した月の前月末日”のままにしているケースが多いです。しかし、会社によって繁忙期は異なります。繁忙期に決算日を持ってきていると買掛金や一時的な借入の増加につながり、もったいないことをしている可能性があります。決算日に強いこだわりがないのであれば、きちんと自社にとって有利になるような決算日を選ぶことをおススメします。

④ 工事進行基準にして未成工事受入金をなくす

通常、中小建設業者では、工事完成基準で売上を計上するのが一般的です。工事完成基準とは、工事が完成した(または完成して引き渡した)ときに請負金額全額が売上になるという考え方です。決算日までに工事が終わっていれば今期の売上に入れ、決算日をまたぐ場合は翌期の売上になります。これに対し工事進行基準とは、決算日をまたぐ工事について決算日時点での工事の進捗度を計算し、その進捗分については今期の売上にするという考え方です。

例えば、請負金額1億円の工事が決算日時点で終わっていない(進捗度60%)とします。工事完成基準であれば、工事が終わっていないのでその工事の今期売上は0円です。そうなると、元請さんや施主さんから前受金として受け取ったお金は「未成工事受入金」として負債となって貸借対照表に計上されます。ここで負債が膨らむことになります。一方で、工事進行基準であれば、進捗度が60%ということなので、100,000千円×60%=60,000千円が今期売上になります。前受金として受け取ったお金も売上になるので「未成工事受入金」が生じず、負債が抑えられることになります。

中小建設業者が工事進行基準をやるにはなかなか大変ではあるのですが、やれば確実に効果が出ます。これからさらに売上を伸ばしていきたい、より規模感のある仕事をやっていきたいということであれば、今後に向けてぜひ導入を検討してみてください。

⑤ 借入金を資本金にしてしまう(DES)

DESとはデットエクイティスワップ(Debt Equity Swap)の略で、債務(Debt)を株式(Equity)に交換する(Swap)ことを言います。ざっくりと簡単に言えば、借入金を元手に資本金を増やす増資の手法の1つです。詳細は『自己資本比率』のときに説明しますが、会社に社長からの借入金があるときに、それをそのまま増資分の株式購入資金として増資をするようなイメージです。負債を資本金に組み入れるので、負債が減少して『負債回転期間』の改善になりますし、資本金が増えるために『自己資本比率』にも大きくプラスの影響が出てきます。

これ以外にも、未払金を先に払ってしまうとか、遊休資産を売却して返済に充てる等、負債を減らす方法は色々あります。大事なのは経営事項審査や経営状況分析(Y点)で何が評価されているのか、さらにその評価項目や指標を細分化していき、自社であればどういうアプローチができるのかを考えていくことです。経審の点数(P点)を上げたい→経営状況分析(Y点)を上げたい→『負債回転期間』を改善したい→負債を減らしたい→うちなら上記の②と③ができそうだな…という風に具体的な行動に落とし込んでいっていただければと思います。

今回は『負債回転期間』についてお話をしました。特にその計算式の分子の部分である「負債」を減らす方法にスポットを当ててきましたが、分母の部分である「総売上高÷12」については『純支払利息比率』のところでも書いたように、違法なことをせずに今ある売上高を増やす魔法が存在します。次回は売上高を増やす方法についてお話をしてきます。

 
行政書士法人Co-Labo
 

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