経審と入札は“逆算”で考える
復習になりますが、経審から入札までの手続きの一般的な流れは、階段を一歩一歩上っていくイメージです。
これは、「役所の出している手引きや本にそう書いてあるから」というのが大きな理由だと思います。確かに、この流れは手続きの流れとしては正しいのです。①を迎え②をやり、②が終わると③をやり…という具合に、一部で同時進行したり順序が逆転することもありますが、順序立て手続きを進めようとするならこの階段を上っていくことになります。
しかし、ここであえてまた問います。なんのために経審を受けるのでしょうか?『 中小建設業者が公共工事を落札するために大事なこと 』でも書きましたが、それは「公共工事を獲得するため」です。では、どんな公共工事を獲得したいのか。これには、
- どこの役所の
- どの業種の
- どれくらいの規模の工事
というように、希望する工事案件(⑨)を明確にしておくことが大事です。そして、これが明確になっていると、どの業種で入札参加登録をすれば良いか、格付けはどのランクにいたら良いか(⑧・⑦)が決まってきます。例えば、
- 東京都の
- 建築工事で
- 1億円くらいの工事
の獲得を目指しているのであれば、東京都の建築工事の格付けでCランクにしておくと良さそうです。これは「発注標準金額」と言って、「どのランクにどれくらいの金額の工事を出しますよ」というのがあらかじめ公表されていることが多いので、こちらを参考にします。東京都では6,000万円~2億2,000万円がCランクの発注標準金額との記載があります。
すると、次には、その希望通りの格付けを得るためには経審の点数を何点くらいにしておけばよいのか(⑥・⑤)がわかります。これは、格付けの基準(審査基準)としてほとんどの役所で公表されているので、見たことが無い方はチェックしておくと良いでしょう。また、格付けの基準は定期受付の度に変更になる可能性もあるので、気を付けたいところです。東京都の公報で格付けの基準を確認すると、建築工事でCランクの格付けを得るには、経審の点数は「650点以上750点未満」であるとの記載があります。
そして、その経審の点数を得るためには経営状況分析(Y点)は何点くらい必要だろうか(④)、そのためには税理士さんの決算書から建設業財務諸表に翻訳する際にできることはないか(③)、さらに踏み込んで決算の段階でできることはないか(②・①)といった具合に、どんどんと時間軸が手前になってきます。
つまり、経審と入札は、獲得したい工事案件という明確なゴールを設定するところからスタートして、“逆算”で考えていくことがとても重要なのです。もちろんこの明確なゴールに手が届くのが一番良いわけですが、仮に獲得したい工事案件には現状では届かないとしても、何が足りていないのか、今後どういう対策が必要になるのかということがわかるようになります。ぜひ、この“逆算”に取り組んでみてください。
経審は、決算の2か月前に決まる!
この話をすると、勘の良い方は気づかれたかもしれません。実は、経審の点数は、決算(①)の時点でほぼ決まってしまうのです。もっと言ってしまうと、決算の2か月前には決まっているのです!
建設業においては、「明日から1億円の工事を2週間で頼むわ!」ということはまずありません。その前に見積り出したり、打ち合わせをしたり、材料を手配したりと、実際に工事に着手するまでには時間がかかりますよね。なので、決算の2か月前にはその年度の決算の数字がおおよそ見えているはずです。したがって、決算の2か月前には経審の点数がほぼ決まってきます。
決算を迎え、確定申告をすると、決算書が確定します。決算書が確定した後でも、これを建設業財務諸表に翻訳するときに点数が上がるように工夫することもできるのですが、できることがどうしても限られてしまいます。したがって、経審で評価される数字の部分については、決算前(期中)から考えることが重要になってきます。できれば、毎月の売上、原価、固定費の管理をお願いしたいところですが、中小建設業者でそれがきちんとできている方はまだ少ないのが現実です。
また、技術職員数や社会性等の項目は、経審の審査基準日(基本的に決算日)の時点でどうだったかということが評価されるため、決算日を過ぎてしまうと対策の打ちようがなくなってしまいます。この点からも、決算の2か月前には決算の予測を立て、それ以外の評価項目を考慮して、経審の着地予想を立てておくと良いでしょう。